Berezinskii-Kosterlitz-Thouless (BKT) 転移に関する論文選集
U(1) 対称性を持つ2次元古典系(有限温度)、1次元量子系(電子系、量子スピン
系)(温度0)での相転移で重要な役割を果たす BKT 転移に付いて論文選集およ
びコメントを作って見ました。BKT 転移は、通常の秩序・無秩序タイプの2次相
転移とは様々な点で異なっています。さらに付け加えたい論文、コメントがある方は野
村(
knomura@stat.phys.kyushu-u.ac.jp
) までどうぞ。
なお、数値計算から BKT 転移点を決め、ユニバーサリティクラスを調べるのは
対数補正の存在のため困難でしたが(もしくはしばしばおかしな結果になる)、
最近対称性と繰り込み群的考察を使った大きな進展がありました。これについて
は
レベルスペクトロスコピーに関する解説
をどうぞ。
(最終更新日
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一般
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F. J. Wegner: Z. Phys. Vol. 206, pp.465 (1967).
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Z. L. Berezinskii: Zh. Eksp. Teor. Fiz., Vol. 59, pp. 907-920 (1970)
(Sov. Phys. JETP, Vol. 32, pp. 493-500 (1971)).
コメント: 上記2つの論文は、2次元 XY 模型に対し、低温展開(スピン波展
開、ガウシアンモデル)をし、長距離秩序は有限温度では無いが、相関関数が
距離の冪乗で振舞い(相関距離無限大)、帯磁率が発散することを示した。また、
帯磁率が有限な高温相との間に何らかの相転移があることを示唆した。
Berezinskii の論文は、2次元 Gaussian モデルの数学的取り扱い(+赤外、
紫外発散の処理)について丁寧に扱っているので、一読の価値あり。
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Z. L. Berezinskii: Zh. Eksp. Teor. Fiz., Vol. 61, pp. 1144-1156 (1971)
(Sov. Phys. JETP, Vol. 34, pp. 610-616 (1972)).
コメント: この論文で低温展開で考慮していなかった vortex, antivortex
に付いて考察し、これが相転移の原因であると議論した。
Vortex, antivortex は U(1) 対称なオーダーパラメーター(古典 XY モデル、
有限温度の2次元超流動、超伝導など) のトポロジカルな欠陥と考えられる。
これらの相互作用が(距離に対して対数的に振舞う)2次元 Coulomb ガスと等価
なことを示し、低温では vortex-antivortex 対が束縛状態を作るので定性的に
は低温展開が正しいが、高温相では vortex, antivortex が解離するのでこれ
が相転移を引き起こすと議論した。また、2次元超流動では、superfluid
density, rigidity が低温相と高温相を区別する物理量であると議論した。
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J. M. Kosterliz and D. J. Thouless: J. Phys. C, Vol. 6, pp. 1181-1203 (1973).
コメント: 2次元古典 XY 模型、超流動、超伝導薄膜、 2次元結晶格子の融
解に付いて議論し、vortex-antivortex の解離により相転移が起きること、ま
た、これを繰り込み群で定式化することを議論した。ただし、前半に付いては
Berezinskii が既に議論しており、後半の繰り込み群の導出には誤りがある
(次の Kosterlitz の論文で正しい導出がなされた)。
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J. M. Kosterlitz: J. Phys. C, Vol. 7, pp. 1046-1060 (1974).
コメント: Kosterlitz-Thouless の論文で不完全であった繰り込み群の導出
を、2次元クーロンガスモデルに基づき完成させた。結果、1)比熱には相転
移点で異常が現れず、2)相関関数の発散は、exp ( C ( T-T_c) ^{-1/2}) と
極めて特異で、3) 相転移点での相関関数には冪乗の項に対数の補正が付く、
など通常の2次転移とは大幅に違う点が指摘された。
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A. M. Polyakov: Nucl. Phys. B, Vol. 120, pp.429 (1977).
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S. Samuel: Phys. Rev. D, Vol. 18, pp. 1916-1932 (1978).
コメント: 上記2つの論文は2次元クーロンガスと量子 sine-Gordon モデル
との等価性を示した。
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D. J. Amit, Y. Y. Goldschmidt, and G. Grinstein: J. Phys. A, Vol. 13
pp. 585-620 (1980).
コメント: BKT 転移の繰り込み群に付いて sine-Gordon 模型を元にして定式
化をきちんとやり直し、2-loop まで計算した。対数補正項だけでなく、2重
対数項が出て来ることを指摘した。1-loop までの繰り込み群の計算は
Kosterlitz のものより見通しが良いと思う。繰り込み群の Technical な面で
は最も丁寧に書かれているのではなかろうか。
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T. Giamarchi and H. J. Schulz: Phys. Rev. B, Vol. 39, pp. 4620-4629
(1989).
コメント: 相関関数の繰り込みを調べた。扱ったハミルトニアン(ラグランジ
アン)は sine-Gordon モデルで、Kosterlitz や Amit et al. と本質的には同
じであるが、内部対称性に違いがありこれが Kosterlitz や Amit et al. で
は出て来なかった相関関数の項を登場させる。この新たな相関関数は繰り込み
群の計算でも Technical に違うのであるが、興味あるのは BKT 転移線上で幾
つかの相関関数どうしで巾指数だけでなく、対数補正の項まで含めた一致が見ら
れ、これは BKT 転移での SU(2) 対称性を反映したものと考えられる。物理的
例としては、1次元電子系、量子スピン系などをあげている。
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K. Nomura: J. Phys. A, Vol. 28, pp.5451-5468 (1995).
コメント: 相関関数と関連する (1+1) 次元の量子系の(有限系の)エネルギー
スペクトルに付いて議論した。Giamarchi and Schulz は BKT 転移点が SU(2)
対称となる場合を議論したが、一般に BKT 転移は SU(2)/Z_2 対称性なので彼
らの議論がそのままでは使えない。この問題を克服する為、BKT 転移はある物
理量が irrelevant から relevant へ、あるいはその逆になる点で起こること
を考慮し、BKT 転移点上で marginal となる複数の物理量に注目し、繰り込み
群の計算を行った。その結果、massless 相で marginal のままになっている
物理量と、別の量との間に hybridization が起こり、別の物理量との間で対
数補正まで考慮した臨界指数が一致することが分かった。したがってこれらの
量の間での臨界指数(有限系での励起スペクトル)の交差を見ることで BKT 転
移点を精密に決められ、また対数補正の除去もできる。
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SU(2) 対称なモデルとの関連
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M. B. Halpern: Phys. Rev. D, Vol. 12, pp. 1684 (1975); ibid. Vol. 13,
pp.337 (1976).
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T. Banks, D. Horn, and H. Neuberger: Nucl. Phys. B, Vol. 108, pp.119
(1976).
上記2つの論文で、sine-Gordon モデルでの BKT 転移につながる線と、SU(2)
Massive Thirring モデルとの等価性が示され、これを使い繰り込み可能性が
詳しく調べられた。
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I. Affleck, J. Gepner, H. J. Schulz, and T. A. L. Ziman: J. Phys. A,
Vol. 22. pp.511 (1989).
SU(2) 対称性を持ち共形不変な Wess-Zumino-Witten (WZW)モデルに付いて、
特にその繰り込み群的性質に付いて調べた。WZW モデルは k=1 の場合、
sine-Gordon 模型での (SU(2) 対称性を持つ) BKT 転移点に当たる。対数補正
に付いても詳しく議論しており、Ziman-Schulz(
レベルスペクトロスコピーの SU(2) 対称なケース参照
)での対数補正の除去法の正当化をしている。
しかし、結合定数の繰り込み群的振舞いをベーテ仮設解と比較したとき、かなりの食
い違いを見せた。これは彼らは 1-loop の繰り込みまでで議論しているのに対
し、実際は 2-loop の寄与がかなり大きいためである。なお、S=1,3/2 で可積分
な系(Takhtajan-Babujan モデル)も扱っているが、ベーテ仮設でのストリング
解の取り扱いにミスがあるので、そもそも WZW モデルとの比較がうまく行って
いない。
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BKT 転移における有限サイズスケーリングでの(病的)問題
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J. Solyom and T. A. Ziman: Phys. Rev. B, Vol. 30, pp.3980 (1984).
コメント:この論文は主に S=1 の Haldane 問題に付いて扱ったものであるが、
その一部で厳密解(ベーテ仮説)のある S=1/2 XXZ モデルに付いて、数値解に対
して有限サイズスケーリング法の1種である現象論的繰り込み群(PRG)による外挿
を行うと見かけ上の転移点が真の値より大きくずれることを見出した。
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E. Seiler, I. O. Stamatescu, A. Patrasciou, and V. Linke:
Nucl. Phys. B, Vol. 305, pp. 623-660 (1988).
コメント:Z(10) クロックモデル(XY モデルとほぼ等価)にたいし大規模なモ
ンテカルロ法を行い、相転移が BKT 転移よりもむしろ通常の2次転移で記述
されると主張した。結論は誤っているが、有限サイズスケーリングで BKT 転
移がうまく扱えないことを指摘したことになる。
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R. G. Edwards, J. Goodman, and A. D. Sokal:
Nucl. Phys. B, Vol. 354, pp. 289-327 (1991).
コメント:XY モデルにたいし大規模なモンテカルロ法を行い、相転移が BKT
転移か通常の(冪乗的に振舞う)2次転移のどちらかであることを区別するのが
困難であることを議論した。問題はモンテカルロ法と云うより、有限サイズス
ケーリングにある(従って DMRG 等他の方法でも有限サイズスケーリングを
元に解析する限りは問題が残るであろう)。
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C. R. Allton and C. J. Hamer: J. Phys. A, Vol. 21, pp.2417-2429 (1988).
コメント: (1+1) 次元 O(2) 模型を転送行列(量子化したハミルトニアン)の
形で扱い、数値計算の結果を共形場理論と比較した。Central charge c=1 は
うまく出たものの、相関関数の臨界指数は Kosterlitz の予想した 1/4 より
かなりずれている。彼らはこれを対数補正が原因であると推測している。
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H. Inoue and K. Nomura: Phys. Lett., Vol.262, pp.96 (1999)
コメント: この論文の Appendix で、現象論的繰り込み群(PRG)を BKT 転移
の解析に利用すると、
単に収束が遅いだけではなく、BKT 転移点とは全く別の点に収束することを、
Kosterlitz の繰り込み群と irrelevant field の影響を考慮して解析的に示し
た。
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