Level spectroscopy に関する文献

連続的対称性 (U(1),SU(2))を持つ2次元古典系(有限温度)、1次元量子(スピ ン、電子)系(温度0)での相転移で重要な役割を果たす Berezinskii-Kosterlitz-Thouless(BKT) 転移 に付いては、(2次相転移の場合に有効であった)有限サイズスケーリングががう まく機能しないことが知られていました。 この問題に付いて、我々のグループで開発した レベルスペクトロスコピー(解説記事執筆中) が有力な 解決法になります。この方法に付いての文献リストです。 コメントがある方は野村( knomura@stat.phys.kyushu-u.ac.jp ) までどうぞ。
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  1. 基本原理
    BKT 転移は、 量子 (1+1) D sine-Gordon モデル、または2次元クーロンガスの 繰り込み群を扱うと導出されます。ここで注意すべきは、massless な臨界的 振舞い(相関距離無限大)をする領域から、 massive な(相関距離有限な)領 域に転移する際、massive な領域での離散的対称性の破れがない(縮退なし)場 合と、離散的対称性の破れがでる(縮退のある)場合は、繰り込み群方程式は同 じでも、相関関数の構造(エネルギースペクトル)に違いがでることです。特に massive な領域で2重縮退がある場合には、BKT 転移線上で SU(2) 対称性がでま す。massive な領域で縮退がない場合は、BKT 転移線上で SU(2)/Z_2 対称性が でます。このことを利用すると低励起エネルギーの交差から BKT 転移点を精度 良く出せ、また対数補正の除去も可能となります。
    1. K. Nomura and K. Okamoto: J. Phys. A, Vol. 27, pp.5773 (1994).
      コメント: 相関関数と関連する (1+1) 次元の量子系の(有限系の)エネルギー スペクトルに付いて議論した。massive な領域で2重縮退がある場合、BKT 転移 点上で SU(2) 対称性を持ち、 T. Giamarchi and H. J. Schulz: Phys. Rev. B, Vol. 39, pp.4620 (1989) の議論を使うことができる。この場合、(BKT 転移線上で)対数補正まで考慮した 臨界指数が一致する物理量がある。したがってこれらの量の間での臨界指数(有 限系での 励起スペクトル)の交差を見ることで BKT 転移点を精密に決められ、また対数 補正の除去もできる。物理例としては、フラストレーションのある S=1/2 量 子スピン鎖を扱った。

      さらに Massive な相の2重縮退は、扱った S=1/2 の系ではそれぞれ dimer,Neel 相に対応するが、この2つの相でのそれぞれの最低励起の交差を見ることにより、 2相の間の相転移線(Gaussian 転移)をきめ、ユニバーサリティークラスの確認 を行なった。

    2. K. Nomura: J. Phys. A, Vol. 28, pp. 5451-5468 (1995).
      コメント: 相関関数と関連する (1+1) 次元の量子系の(有限系の)エネルギー スペクトルに付いて議論した。Giamarchi and Schulz は BKT 転移点が SU(2) 対称となる場合を議論したが、(massive な領域で離散的対称性の破れのない) 普通の BKT 転移は転移線上で SU(2)/Z_2 対称性なので彼 らの議論がそのままでは使えない。この問題を克服する為、BKT 転移はある物 理量が irrelevant から relevant へ、あるいはその逆になる点で起こること を考慮し、BKT 転移点上で marginal となる複数の物理量に注目し、繰り込み 群の計算を行った。その結果、massless 相で marginal のままになっている 物理量と、(irrelevant から relevant に変化する)別の量との間に hybridization が起こり、U(1) 対称性と結び付く(relevant から irelevant へ変化する)もう一つの物理量との間で対数補正まで考慮した臨界指数が BKT 転移線上で一致することが分かった。したがってこれらの 量の間での臨界指数(有限系での励起スペクトル)の交差を見ることで BKT 転 移点を精密に決められ、また対数補正の除去もできる。そのほか、励起スペク トルを分類する為、並進対称性と離散的対称性(空間反転、スピン反転)の考察 を行った。
    3. A. Kitazawa: J. Phys. A, Vol. 30, L285-L291 (1997).
      BKT 転移と密接に関係する Gaussian 転移は一般に2次転移である。Nomura-Okamoto が扱った状況では、オーダーパラメーターとそれに共役な別のオーダーパラメー ターに対応する励起が交差する点で転移点を決めたが、一般にはこれがう まく行かない。Kitazawa はひねり境界条件により、実効的に半整数の電荷(磁 荷)を導入し、これを臨界点の決定に使えることを示した。共系場理論でひね り境界条件をいれる議論は以前からあったが、off-critical な状況に応用し たのはこれが初めてであろう。
    4. K. Nomura and A. Kitazawa: J. Phys. A, Vol. 31, pp. 7341-7362 (1998).
      ひねり境界条件の方法を SU(2)/Z_2 対称性な BKT 転移へ応用した。この結果、 理論に内在する SU(2) 対称性を励起スペクトルで直接的に見ることが可能に なった。また、転移点の決定精度も向上した。付録 C でひねり境界条件と並 進対称性、空間反転対称性、スピン反転対称性との関連を議論している。
  2. 応用
    1. A. Kitazawa, K. Nomura, and K. Okamoto: Phys. Rev. Lett., Vol. 76, pp. 4038-4041 (1996).
      コメント:S=1 のボンド交替のある XXZ 量子スピン鎖に付いてレベルスペク トロスコピーを使い、Haldane 相、dimer 相、XY 相、Neel 相の関係が(Z_2 X Z_2 対称性の議論から予想される) Ashkin-Teller モデルのものとトポロジカ ルに一致すること、および Haldane-XY, dimer-XY 相の境界が(K=4、または SU(2)/Z_2 対称性の) BKT 転移に属することを対数補正を除去して確かめた。
    2. A. Kitazawa and K. Nomura: J. Phys. Soc. Jpn., pp. 3379 (1997)
      コメント:S=3/2,2 のボンド交替のある XXZ 量子スピン鎖に付いてレベルス ペクトロスコピーを使い、BKT 転移と Gaussian 転移を精密に決めた。スピン S でのこの系は 2S+1 本の BKT 転移線と 2S 本の Gaussian 転移線、それに 2S+1 本の 2D Ising ユニバーサリティの転移線からなるという予想を実証し た。
    3. A. Kitazawa and K. Nomura: J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 66, pp. 3944-3956 (1997).
      コメント:S=1 のボンド交替のある XXZ 量子スピン鎖に付いて XY 相の内部、 dimer-Haldane 相境界(Gaussian 転移)に付いてユニバーサリティクラスを精 密に調べた。また、dimer-Haldane の相転移に付いてひねり境界条件と空間反 転対称性を組み合わせた議論で隠れた Z_2 X Z_2 対称性の意義付けを新たに した。
    4. M. Nakamura, K. Nomura, and K. Kitazawa: Phys. Rev. Lett., Vol. 79, pp. 3214-3217 (1997).
      コメント: 1次元電子系の $t-J$ モデルでのスピンギャップの問題に応用し た。1次元電子系ではスピン自由度と電荷自由度との分離が見られるが、スピ ン自由度にエネルギーギャップが開くと超伝導相関が大幅に増大するので注目 されていた。電子系はボゾン化すると量子スピン系と同様に扱えるが、フェル ミオンである事を反映し、選択則を考慮しなければならない。ひねり境界条件 と選択則を考慮する事でスピン自由度のみ分離し、レベルスペクトロスコピー を応用し、これまで予想されていたよりはるかにスピンギャップ相が広い事を 解明した。またユニバーサリティクラスを確かめ、スピンギャップが後方散乱 の過程による事を明らかにした。
  3. SU(2) 対称なケース(レベルスペクトロスコピーの発想の発端となったもの、 BKT 転移の特殊なケースに当たる)
    1. T. A. L. Ziman and H. J. Shculz: Phys. Rev. Lett., Vol. 59, pp. 140, (1987).
      S=3/2 の量子スピン鎖について singlet,triplet の交差から転移点を出し、 また、対数補正の比が Clebsch-Gordan 係数となることを使って対数補正の除 去をしたもの。 この時点では、Affleck, Gepner, Schulz, and Ziman も Giamarchi and Schulz も (BKT 転移の論文選集参照) 出ていなかった為、根拠付は明らかでなかった。
    2. K. Okamoto and K. Nomura: Phys. Lett. Vol. 169A, pp. 433-437 (1992).
      S=1/2 のフラストレーションのあるハイゼンベルク反強磁性体に付いて singlet,triplet の交差から転移点を出し、また対数補正の除 去をしたもの。

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低次元量子系理論研究グループ