: 運営組織の問題
: 準天頂衛星システムについての意見
: 準天頂衛星システムについての意見
準天頂システム(QZSS)は日本独自の衛星測位システム構想で,
日本周辺限定の地域航法衛星システムである.
しかし,これは既存の GPS などの全地球衛星測位システム(GNSS)と重複投資となる.
巨額の投資に見合った価値があるかどうか,十分検討してから
踏み切るべきである.
- 準天頂システム(QZSS)整備に必要な費用は約 1700 - 2700 億円と試算されている[1].
またインフラ完成後も継続的に年間数百億円単位の整備費用が必要である.
- 衛星測位システム(GNSS)としては既にアメリカの GPS, ロシアの GLONASS,
現在整備中の EU のガリレオ(Galileo),中国の北斗2(COMPASS)[2]などある.
したがって
QZSS は衛星測位システムとしては重複投資となる.
- 重複投資でも,既存の衛星測位システムが使えなくなる場合のリスク分散なら正当化できる.
ところで GPS も GLONASS も核戦争を想定し構築されたシステムで,部分的なトラブルなら
ともかく,全体的な機能停止は極めて起こりにくい.
さらに GPS が使えず,QZSS のみが使える状況は大変想定しにくい
[3]
.
- 地形によっては測位に必要な数の GPS 衛星が見えないことがある.これが準天頂衛星システム推進の
強い根拠の一つであった.ところが GPS に GLONASS [4], COMPASS や数年後には Galileo システムが
加わることで地形による可視衛星数の問題は大幅に緩和される.
- 性能面では,衛星測位精度では準天頂衛星「みちびき」は既存の GPS を上回っている.
しかしながら次世代 GPS や Galileo システムで衛星測位精度が向上
[5,6,7]
するので,
QZSS を整備完了の時点では,他の GNSS システムに対する優位はなくなる.
- コスト面でも地球規模の GPS や Galileo システムに対して,地域航法衛星システム
の QZSS が
十分優位とはいえない.QZSS では必要な衛星数こそ少ないが,軌道が GPS 他より高いので
衛星質量が重くなり
[8]
,コスト高になる.また数が少ないので量産によるコスト削減効果も低い.
なお,地域航法衛星システムには,他にインドの IRNSS [9]
がある.
- 外交的プレゼンスとしても,中国は独自の衛星測位システム構築中,韓国は Galileo 計画に
参加しているので,QZSS の意義は乏しい.他の国に対しては地域航法衛
星システムの性格上メリットに欠ける.
そもそも Galileo のように最初から多国間協力
(EU 以外に 中華人民共和国、イスラエル、ウクライナ、インド、モロッコ、サウジアラビア、大韓民国
が参加
)
で進められているものと根本的に違う.
- 残る準天頂システムのメリットといえば,超高層ビル街での衛星測位の有効性が高まると
言うことくらいである.しかし国費を投じての数千億円の宇宙インフラ構築の正当化には不十分である.
以上から,民生用に準天頂システムの構築に早急に乗り出すのは大きな疑問がある.
少なくとも現状より大幅にコストパーフォーマンスが改善される必要がある.
かといって日本には,ロシアや中国のようにアメリカと対抗する戦略的な意志も能力もない
し[3],インドのような地域大国(核兵器保有国)としての戦略
があるわけでもない.
EU のように,アメリカやロシアに対する第3グループを外交的に形成する意志も
ない.
幸い,初号機の「みちびき」には十分な寿命があるので,再検討の時間はある.
Kiyohide NOMURA
平成23年12月27日