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: BKT 転移と2次転移 : BKT 転移とレベルスペクトロスコピー : BKT 転移とレベルスペクトロスコピー

低次元では量子揺らぎ・(臨界点近傍の)熱揺らぎが大きく, 臨界現象が重要になる.臨界現象には, 自発的対称性の破れとしての2次相転移の他, 対称性の破れが無い相転移があり,本解説で扱う Berezinskii-Kosterlitz-Thouless (BKT) 転移 [1,2,3] はその1つである.

まず2次相転移を振り返る. 対称性の破れた低温側では秩序変数(自発磁化など)はマクロな値をと るが,温度を上げると連続的に減少して転移点で零になる. 転移点では感受率(帯磁率,比熱など)が発散する.感受率の発散は 揺らぎの増大を反映し,揺らぎの相関距離($\xi$)が転移点に 近付くと発散し,相関関数は転移点で冪乗的に振舞う (無秩序相では指数関数的に減少,秩序相では一定値). 感受率・相関距離の発散の程度は臨界指数で表 される.一般に系の次元と対称性が同じなら臨界指数は同一である (ユニバーサリティー). また臨界点は相図の中で孤立している.

対照的に BKT 転移では広い領域で臨界現象が見られ, 臨界相(2次元 XY 模型・超伝導薄膜の低温相,絶対零度の1次 元量子系のスピン液体相,朝永-Luttinger 液体相)で連続的対称性 (U(1),SU(2))に伴う秩序変数は零のままだが,感受率・相関距離は 発散している. 臨界指数は臨界相内でパラメーター(温度,異方性など)に依存し連 続的に変化する.

BKT 転移の研究の歴史は長いが,2次転移で有効な方法を応用でき ないことは意外と認識されていない. BKT 転移での有限サイズ補正は対数で効くのでマクロな 系でも無視できず[4],実験でユニバーサルジャンプが鈍って見えるとか, 数値計算で臨界指数がうまく求まらず,新種の相転移の発見という 報告すらあった. 最近 DMRG により大きな系の数値計算が精密に できるようになり,相関距離有限の場合に加え2次転移でも成功 しているが,BKT 転移を直接扱うのは困難である[5].

我々は繰り込み群と対称性に基づき,有限系の数値計算から得られる複数の励 起から対数補正が打ち消し合う組合せをとることで,BKT 転移の対数補正 の困難を避けることに成功した(レベルスペクトロスコピー).

次節で BKT転移を2次転移と比較し,物理的意義の 違いを確認する.3 節でレベルスペクトロスコピーの結果を述べる. 4節でレベルスペクトロスコピーの導出をするが, BKT 転移の知識を前提としているので,それ以外の読者は 先に5節以降の具体例に取り掛かることを勧める.



Kiyohide Nomura 平成16年6月8日