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: レベルスペクトロスコピー : BKT 転移とレベルスペクトロスコピー :

BKT 転移と2次転移

臨界現象を扱う有力な手段がスケーリング仮説と繰り込み群 [6] で,スケール変換に伴う物理量の変化を追って発散を扱う.

$d$次元古典系(または絶対零度の $(d-1)$ 次元量子系)ハミルトニアン

\begin{displaymath}
H = H_0 + \sum_{j} y_j \int \psi_j (x) \frac{d^d x}{\alpha^d}
\end{displaymath} (1)

に対し($H_0$:スケール不変,$\psi_j (x)$:局所 秩序変数,$y_j$:結合定数(又は外場),$\alpha $:格子間隔などミクロな距離), スケール変換 $ \alpha' = b\alpha$を行ない, 有効秩序変数が $\psi'_j =b^{x_j} \psi_j$ ($x_j$ :スケーリング次元)となったとしよう.

この時,式(1)がスケール不変であるためには, $y'_j= b^{d-x_j} y_j$ でなくてはならない[7].はじめに$y_j=0$なら$y'_j=0$のままなので,これ を臨界固定点と呼ぶ. スケール変換 $b \rightarrow \infty $ で有効結合定数 $y'_j$ が臨界固定点から発散する場合($x_j<d$)を relevant, 収束する場合($x_j>d$)を irrelevant, 中間($x_j=d$)を marginal と呼ぶ.実際は $y'_j$$O(1)$ 以上での スケール変換は無意味で,このスケー ルが相関距離 $\xi$ に当たり,relevant な場合は $\xi \propto y_j^{1/(x_j-d)}$, irrelevant な場合は臨界固定点に流れ込み $\xi = \infty$ である. 同じく $b \rightarrow \infty $ で秩序変数の期待値 $\langle \psi'_j \rangle$は有限になるので, $\langle \psi_j \rangle
\propto \xi^{-x_j}$ と振舞う. 外場$y_j$をかけると共役な秩序変数 $\langle \psi_j \rangle$がオーダーする が,例えば強磁性体で転移点付近で温度を変えると,(磁化など)他の秩序変数 $\langle \psi_k \rangle$ もオーダーすることがある(自発的対称性の破れ). この他,相関関数 $
G_j (r_1-r_2) \equiv \langle \psi_j (r_1) \psi_ j(r_2) \rangle
- \langle \psi_j (r_1)\rangle \langle \psi_ j(r_2) \rangle
$

\begin{displaymath}
G_j (r/\alpha; \{y_k\})
= b^{-2 x_j} G_j (r/\alpha'; \{y'_k\})
= b^{-2 x_j} G_j (r/(b \alpha); \{y_k b^{d-x_k}\})
\end{displaymath} (2)

(臨界固定点で \fbox{$ G_j (r) \propto (r/\alpha)^{-2 x_j} $} ), 感受率は $\chi_j(\{ y_k \}) = b^{d-2 x_j} \chi_j (\{y_k b^{d-x_k}\})$ で,各臨界指数がスケーリング次元 $x_j$ と関連づけられる.

微小なスケール変換 $\alpha' = \alpha e^{d l} \approx \alpha(1+ d l) $ に対しては, 式(1) を摂動論的に扱える.この とき,2次相転移は

\begin{displaymath}
\frac{d y_{j}(l)}{dl} = (d - x_{j}) y_{j}(l) \equiv \beta_j (\{ y_{j}(l)\})
\end{displaymath} (3)

という繰り込み群方程式で表される. 図 1 a に 結合定数が2個で $ x_1 < d < x_2 $ の場合の スケーリングの流れを示した. 2次転移は relevant な結合定数に対する $\beta$ 関数 の正負が入れ替わるところで起こり, 傾きが臨界指数と関係する.有限サイズスケーリング法 [9] の一つ Roomany-Wyld 法は数値的に $\beta$ 関数を求め,転移点と臨界指数を決める 方法である.
図 1: (a) 2次転移 と (b) BKT 転移 の繰り込み群.網目部分 が臨界領域
\includegraphics[width=5cm]{2-flow.eps} \includegraphics[width=5cm]{BKT-flow.eps}

一方,BKT 転移のような臨界相($\xi = \infty$,massless)から相関距離有限(massive) の相への相転移を記述する繰り込み群方程式の候補には

\begin{displaymath}
\frac{d y_2(l)}{dl} = - y_1 y_2(l)
\end{displaymath} (4)

がある.ここで臨界固定点は $y_2=0$ 全体, 結合定数 $y_2$$y_1>0$ で irrelevant, $y_1<0$ で relevant である. 従って $y_2 \neq 0$ では,$y_1>0$ で相関距離 $\xi = \infty$$y_1<0$ で 有限の相関長となる. しかし実際には $y_1$ の繰り込みも考慮しなければならない. 式 (4) は $y_2 \rightarrow -y_2$ [8] で不変だったことを反映し,BKT 転移の繰り込み群方程式は [2,3,6]
\begin{displaymath}
\fbox{$\displaystyle
\frac{d y_{1}(l)}{dl} = - y_{2}(l)^2, \;
\frac{d y_{2}(l)}{dl} = - y_{1}(l) y_{2}(l)
$}
\end{displaymath} (5)

となる($d=2$ 次元,図 1b). 臨界固定線 $y_2=0$ をガウシアン固定線と呼ぶ. 固定線に流れ込む臨界領域($\xi = \infty$)は $\vert y_2 \vert< y_1$, それ以外は相関距離有限で,2領域の境界 ( $y_2 = \pm y_1, y_1>0)$ が BKT 転移線である. 又,$y_1=y_2=0$ を BKT 多重臨界点と呼ぶ.ちなみに,$U(1)$ 対称な結合定数 (例: XY モデルでの温度)は BKT 臨界領域で irrelevant だが,$U(1)$ 対称性 を破る結合定数(例: XY モデルの面内磁場)は relevant で,対応する感受率 が発散するので,秩序化寸前(準長距離秩序)の状態である.

2次相転移では臨界領域($\xi = \infty$)が相図の中で 孤立しているが,BKT 転移では広がった領域にある. 従って$\xi = \infty$ が BKT 転移点を探す良い指標にならず, 2次転移で有効だった有限サイズスケーリング 法 [9] は BKT 転移に応用できない [10,11]. さらに2次転移では $\beta$ 関数の零点が転移点に対応していたが, BKT 転移では特別な意味がない.

また BKT 転移線上での繰り込み群的振舞いは,relevant でも irrelevant でも なく,marginal なので,対数補正 $y_1(l) = 1/l = 1/\ln (b)$ が現れ,有限サイズ効果が強く効く.関連して相関距離が2次転移の $\xi \propto y_j^{1/(x_j-d)}$ に対し, BKT 転移では $\xi \propto \exp( c/\sqrt{\vert y_2 \mp y_1\vert})$ と非常に強い発散になる. 従って有限サイズ効果が2次転移より大きく, 有限系からの外挿で $\xi^{-1} = 0 $ から転移点を推定すると, massive 領域を狭く見積もることになる.

判定条件 $\xi^{-1} = 0 $ がうまく機能しないのは,外挿などの誤差を含む量 で零か有限か判定しているからである. BKT転移点で大小関係が入れ換わる量を見つけられれば,転移点が精 度良く数値計算から求まると予想される. これがレベルスペクトロスコピーの基本的発想である.


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Kiyohide Nomura 平成16年6月8日