フラストレーションを持つスピン系はしばしば特異な振舞いを示す。
次近接相互作用のある S=1/2 量子スピン鎖はスピン流体
相とダイマー相(2体スピン相関関数の長距離秩序はないが、4体スピン相
関関数で長距離秩序がある)の間に相転移がある。
論文 [8,9,10]では次近
接相互作用のある S=1/2 XXZモデルを扱った。このモデルは(XY-dimer,XY-Néel
相間で) BKT的な相転移を示し、エネルギーギャップが
と極めて緩やかに開き、物理量に対数補
正があるため、有限サイズスケーリングの方法が有効でなく誤った結
論を導くことさえある。ところで SU(2) k=1 Wess-Zumino-Witten模型によると
singlet励起とtriplet励起の差から
対数補正の項のみ抜き出せ、これから容易に相転移点が求められる
[8]。
異方性のある場合も同様な議論ができるが、励起状態を空間反転、スピン反転な どの対称性で分類することで相転移の物理的描像を明確にした [9,10]。臨界指数を求め1パラメータ スケーリングが成立することを確かめ、更に 励起エネルギーの差が臨界点からの距離に比例することを sine-Gordon模型の繰 り込み群の議論から根拠づけた。
この研究は、その後良質な無機の1次元量子スピン系
でスピ
ンパイエルス転移が見つかったことで盛んに引用されるようになった。しかし、
個人的にはこの系ではフラストレーションよりも、鎖間の弱い相互作用が効いて
いるのではないかと推測する。