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: スピン系(S=1) : 具体例 : 具体例

スピン系(S=1/2;$Z_2$ 対称性)

例として,$S=1/2$ の次近接相互作用のある反強磁性$XXZ$スピン鎖 (競合相互作用のあるスピン系の最も簡単なモデル)を取り上げよう.
\begin{displaymath}
H= \sum_{j=0}^{L-1} (h_{j,j+1} + \alpha h_{j,j+2}), \qquad
h_{i,j}= S^x_i S^x_j +S^y_i S^y_j+ \Delta S^z_i S^z_j
\end{displaymath} (22)

ここで,$\Delta $ は異方性のパラメーター,$L$ はスピン数, 周期的境界条件 $S^{x,y,z}_{L+j} = S^{x,y,z}_j$ を取り,また $L=4n$ とする. このモデルは $Z_2$対称性の破れを伴うので,$K=1$ の タイプのBKT転移が起こり,準位交差から相転移点が決まることに対して 直観的理由がつけられる.

単純な$XXZ$鎖($\alpha =0$)では,ベーテ仮説による厳密解から, 基底状態は$\Delta \le 1$なら$XY$相($\xi = \infty$,スピン液体相,massless相), $\Delta >1$ならネール相(二重縮退,$\xi$有限)である. 一方,$\alpha=1/2$では隣接スピンが一重項ペアをつくったものの直積, すなわち $[l,m] \equiv (1/\sqrt{2})(\uparrow_l \downarrow_m - \downarrow_l \uparrow_m)$ として

$\displaystyle \Phi_1$ $\textstyle =$ $\displaystyle [1,2] [3,4] [5,6] \cdots [N-3,N-2] [N-1,N]$  
$\displaystyle \Phi_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle [2,3] [4,5] [6,7] \cdots [N-2,N-1] [N,1]$ (23)

が基底状態になることがMajumdarとGhosh[23]によって示されている. 彼らが示したのは$\Delta =1$の場合であるが, $-1/2 \le \Delta$に拡張できる. $\Phi_1$$\Phi_2$とは有限系では直交していないが ( $\langle \Phi_1 \vert \Phi_2 \rangle = (-1)^{-N/2} 2^{1-N/2}$), 無限系では直交し並進対称性の自発的に破れた二重縮退の状態が実現される. 基底状態が$\Phi_1,\Phi_2$で表されるのは$\alpha=1/2$のときだけであるが, その近くでは同じような状態と考えてよいであろう. この状態をダイマー状態と呼ぶ.

結局,このモデルではネール,ダイマー,$XY$の3相があり, 互いの相の間に3本の相転移線がある[14] (図 4). このモデルはボソン化により, (12)の $\cos \sqrt{2} \phi$項を $\cos 2 \sqrt {2}\phi$と置き換えたsine-Gordonモデル(4.2節参照)にマップされる. (22)のパラメーターは$\Delta $$\alpha $であるが, sine-Gordonモデルにしたとき$\Delta $$\alpha $の変化が$y_1$$y_2$に共に 影響を及ぼす構造になっている. 定性的には$\Delta $を増加させると繰り込み開始点は左上方向に移動し, $\alpha $を増加させると左下方向に移動する,という関係になっている.

図 4: (a) (22)のモデルの基底状態相図の概形. 太い実線はBKT転移線,破線はガウシアン転移線. (b) 繰り込み群の流れ図. $y_1 \propto K-1$である. $\Delta $を固定して$\alpha $を増やすと, 繰り込みの初期点(□○◇)は左下方向に移動してゆく. □が$\Delta <1$,○が$\Delta =1$,◇が$\Delta >1$の場合である. 例えば,○の右上から左下の移動は,(a)の図で$\Delta =1$線に沿って$\alpha =0$から真上に 移動していったことに対応し, (a)で3本の線が会するところが(b)の原点である.
\includegraphics[width=5cm]{nnn-phase.eps} truecm \includegraphics[width=5cm]{nnn-flow.eps}

ネールの秩序変数は$(-1)^l S_l^z$で,ネール状態ならその相関 $(-1)^r \langle S_0^z S_r^z \rangle$$r \to \infty$としたときに有限に残る. ダイマー秩序変数は $(-1)^l (S_l^+ S_{l+1}^- + S_l^- S_{l+1}^+)$で, ネール状態でダイマー相関を見れば $\exp(-r/\xi)$の形で減衰し,$r \to \infty$でゼロになる. 逆も同様である. 一方,XY状態(スピン液体状態)では, どちらの相関も$r \to \infty$で有限に残らず, 相関の減衰の様子は共に$r^{-K}$である. すなわち,XY状態はネール,ダイマーどちらも長距離秩序はないが, それらが同程度に発現寸前の状態である. なお,XY状態で最も発達している相関はXY相関 $\langle S_0^+ S_r^- \rangle$で, 減衰の様子は$r^{-1/K}$である. 等方的($\Delta =1$)の場合は$K=1$で,ちょうどネール相関とXY相関の振る舞いが等しくなり, 物理的要請とコンシステントである.

ダイマー相は無限系で基底状態が二重縮退していて, ハミルトニアンの対称性(サイトを1つ平行移動したときの対称性)が 自発的に破れている相である. ところが,有限系では通常は基底状態は縮退していない. 両者はどうつながっているかというと,有限系のある低励起状態が $L \rightarrow \infty$で 基底状態に漸近的に縮退し 無限系で両者の線形結合が起こって対称性の破れた二重縮退基底状態が 実現される. この励起をダイマー励起と呼ぶことにすると, ダイマー相では有限系でダイマー励起が一番低い励起になっているはずである. 他の励起(例えば次のダブレット励起)はダイマー相で励起ギャップがあることから, $L \rightarrow \infty$で有限値をとる.

つまり,ダイマー相での有限系での基底状態とダイマー励起状態は $(1/\sqrt{2})(\Phi_1 \pm \Phi_2)$と連続的に つながった状態である. $L=4n$のときには基底状態は$m=0,P=1,q=0$の状態であることが知られているので ( $(1/\sqrt{2})(\Phi_1 + \Phi_2)$に対応), ダイマー励起の方は$m=0,P=1,q=\pi$である( $(1/\sqrt{2})(\Phi_1 - \Phi_2)$に対応).

$XY$相では,反強磁性スピン波理論から予想されるように, $m= \pm 1$のスピン波状態( $m=\pm 1,P=-1,q=\pi$)が最低励起になっている. これをダブレット励起と呼ぶ 以上の考察より,離散的対称性の違いで区別できるダイマー励起とダブレット励起は $XY$相とダイマー相で大小関係が逆転する. すなわち,この2つの励起こそBKT転移点で大小関係の入れ替わる2つの量で, 我々の求めていた量の組なのである.

具体的に$L=4$の場合を見てみよう. ハミルトニアン行列は $2^4 \times 2^4$だが, $m$で分類をすると, 最大の部分空間$m=0$ ${}_4 C_2 \times {}_4 C_2 = 6 \times 6$ の行列になる. さらに波数などの対称性分類をすると,固有値と固有ベクトルは手で求められる. 結果を表3にまとめた.


表 3: 4スピンの固有状態エネルギー。 表中の$A$ $A=4\alpha ^2 (\Delta -1)^2 + 4\alpha \Delta (\Delta -1) + 8 +\Delta ^2$である。 $S_{\rm T}$$\Delta =1$のときのみ意味がある。 例えば、ダイマー励起の波動関数は $\psi_{10} = (1/2)( \vert \uparrow\uparrow\downarrow\downarrow \rangle
- \ver...
...parrow\uparrow \rangle
- \vert \downarrow\uparrow\uparrow\downarrow \rangle )$ で、これから $P=+1, T=+1, k=\pi $がわかる。
  $S_{\rm T}$ $S_{\rm T}^z$ $P$ $T$ $k$ $E$  
$\psi_1$ $2$ $2$ $+1$ $*$ $0$ $(1+\alpha)\Delta$  
$\psi_2$ $2$ $1$ $+1$ $*$ $0$ $1+\alpha$  
$\psi_3$ $1$ $1$ $-1$ $*$ $\pi$ $-1+\alpha$ ダブレット励起
$\psi_4$ $1$ $1$ $*$ $*$ $\pi/2$ $-\alpha$  
$\psi_5$ $1$ $1$ $*$ $*$ $-\pi/2$ $-\alpha$  
$\psi_6$ $2$ $0$ $+1$ $+1$ $0$ $(1/2)\left(2\alpha-\Delta+\sqrt{A}\right)$  
$\psi_7$ $1$ $0$ $*$ $-1$ $\pi/2$ $-\alpha\Delta$  
$\psi_8$ $1$ $0$ $*$ $-1$ $-\pi/2$ $-\alpha\Delta$  
$\psi_{9}$ $1$ $0$ $-1$ $-1$ $\pi$ $(-1+\alpha)\Delta$ ネール励起
$\psi_{10}$ $0$ $0$ $+1$ $+1$ $\pi$ $-\alpha(2+\Delta)$ ダイマー励起
$\psi_{11}$ $0$ $0$ $+1$ $+1$ $0$ $(1/2)\left(2\alpha-\Delta-\sqrt{A}\right)$ 基底状態


今は$0<\alpha<1/2$を考えているので, $\psi_{11}$が基底状態である. 実際,波動関数を求めると, $\psi_{10}$$\psi_{11}$はそれぞれ $\Phi_1-\Phi_2$(対称性は$m=0,P=1,q=\pi$)と$\Phi_1+\Phi_2$(対称性$m=0,P=1,q=0$) を規格化したものになっている. すなわち,$\psi_{10}$は基底状態$\psi_{11}$と線型結合を作って ダイマー状態$\Phi_1,\Phi_2$を実現できるようなダイマー励起である. 同様に,ネール励起は基底状態と線型結合を作ってネール状態を実現できるような励起である. 2スピン問題で言えば, 基底状態が $(1/\sqrt{2})(\vert\uparrow \downarrow \rangle - \vert\downarrow \uparrow \rangle)$で, ネール励起が $(1/\sqrt{2})(\vert\uparrow \downarrow \rangle + \vert\downarrow \uparrow \rangle)$である.

さて,表 2 に示したスケーリング次元との関連を見よう. 対称性から,表 2 の上段の3つが順に ダブレット励起,ネール励起,ダイマー励起に対応している. $XY$-ダイマーのBKT転移は $y_2(l)=-y_1(l)$$y_1(l)>0$で起こり, ダブレット励起とダイマー励起のスケーリング次元は共に $(1/2)-(1/4)y_1(l)$, ネール励起のそれは $(1/2)+(3/4)y_1(l)$になる. したがって$y_1(l)>0$で($\Delta <1$に対応) ダブレット励起とダイマー励起が等しくなるところが $XY$-ダイマー転移点で,前の考察と同じ結果が得られた. 図3(a)との対応で言えば,$x_{1,0}$がダブレット励起, 実線がダイマー励起,一点鎖線がネール励起である. 同様にして,$XY$-ネール転移点は$y_2(l)=y_1(l)$$y_1(l)>0$で起こり, このときダブレット励起とネール励起のスケーリング次元は $(1/2)-(1/4)y_1(l)$, ダイマー励起のそれは $(1/2)+(3/4)y_1(l)$になる. この場合は,実線がネール励起,一点鎖線がダイマー励起である. sine-Gordon模型の $\cos 2 \sqrt {2}\phi$項によってエネルギーが下がる方の励起が 図3(a)の実線であり,それがネール励起とダイマー励起のどちらにあたるかは 図3(a)の説明のように $\cos 2 \sqrt {2}\phi$項の係数(本質的に$y_2$)の正負で 違いが生ずる.

BKT転移に伴う対数補正の最低次の項は$y_1(l),y_2(l)$に含まれている. したがって, $(x_{0,sin} + x_{0,cos} + 2 x_{\pm 1,0})/4$ を作ってみると $y_1(l)$$y_2(l)$ が消えて 1/2 になり,主要な対数補正項が消去できる (図 5). 例えば,XY-ダイマー転移点では $x_{\pm 1,0} = x_{0,sin}$ だから, $x_{\pm 1,0}$ (あるいは $x_{0,sin}$) と $x_{0,cos}$ と を 3:1 で平均していることになる. この比の$3:1$$K=1$ のBKT転移に内在する$SU(2)$対称性を反映している. なお,$XY$-ネール転移点ではハミルトニアン自体が$SU(2)$対称だが, $XY$-ダイマー転移点での$SU(2)$対称性はsine-Gordon 有効ハミルトニアンレベルで のものである.

図 5: 対数補正除去後のスケーリング次元の振舞 ([14] Fig. 15 より転載)。
\begin{figure}
\end{figure}

最後のダイマー-ネール転移点はダイマー励起とネール励起が等しくなり, かつダブレット励起より低くなる場合( $y_2(l)=0, y_1(l)<0$)でおこる. これは図3(b)に相当している. すなわち$x_{0,1}$の分裂が消える点である.

表の4スピンの結果と比べると,$XY$-ダイマー境界は$\Delta <1$かつ $\alpha=1/(3+\Delta)$, ネール-ダイマー境界は$\Delta >1$かつ $\alpha=\Delta/(2\Delta+2)$, XY-ネール境界は$\Delta =1$かつ$\alpha<1/4$である. 特に$\Delta =1$の場合の$XY$-ダイマー転移点(BKT多重臨界点でもある)は $\alpha_{\rm c}=1/4$で,4スピンの結果でも真の値0.2411[24]と4%程度しか違わない.

最近 $\Delta>0$[14] に加え,$\Delta<0$ のケースも調べられた.[25] その結果,ダイマー相から強磁性相への直接転移が起こ ることが確かめられた.


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Kiyohide Nomura 平成16年6月8日